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みぃ

Author:みぃ
ブログ公開:2012/4/17

この作品に出会えて
本当に良かった。
これからもずっと変わらず
愛してます。(主に副長を♡)

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誘い火


【土方 歳三・沖田総司/屯所】※not BL




 無言で開けた障子から吹き込む冷えた風は 夜も深けたと言うのに
 まだその部屋での役目を終えずにいる行灯の火をゆらりとさせた。
 それとほぼ同時に 和紙の上で滑らせていた筆先が一瞬止まり文字を滲ませる。
「ヒトの部屋…… 黙って開けるんじゃねえよ」
 浮かび上がった影の形を変える事無く 土方は文句を言った。
「まだ起きてたんですか?」
「俺の時間をどう使おうが俺の勝手だろうが それよりっ」
 土方は短く息を吐き出すと硯に筆を置き ようやく身体の向きを変えた。
「総司 てめえこそ何しに来た? さっさと寝やがれっ」
 不機嫌に寄せた眉の下で 紫紺の眼球が睨む。
「ちゃんと寝てましたよ けど厠に来てみたら灯りが見えたんで」
 沖田は部屋に来た理由を言い終わると タンと音をさせ薄茶色の木枠を合わせた。
「またそんな寒々しい格好してやがって ちゃんと綿入れ引っ掛けろ!」
 寝巻き一枚の沖田が腰を下ろした所で 土方は自分の羽織を投げつける。
 胡坐をかいた足の上に広がったそれを手にし
「兄貴風吹かさないでくださいよ 自分だって末っ子のくせに」
 気遣いされた礼も言わずに 沖田は背中に広げ肩に垂らした。
 視線を戻した時 土方は再び文机へと向かっていた。
「近藤さん…… 大丈夫ですよね?」
 見慣れた後ろ姿に問い掛ける。垂れ下がった総髪が微かに揺らいで見えた。
「まだ文句が言い足りねえのか?」 
 言い終わる間際 沖田の方へ振り向く。
 新選組局長として参加した軍議を終え 二条城からの帰り道
 近藤は狙撃され右肩に重傷を負った。落馬しなかったのが唯一救いだった。
「血は止まって峠を超えた もう命に別状はねえ」
 黙ったままの沖田に静かに言い 彼は顔を戻した。
「だが手薄な護衛にしちまったのは俺の落ち度だった…… 」
 前を向き薄灯りの影の中に 怒りで赫う目を沖田は見据えた。
 彼はその"落ち度"を決して許すつもりはなかったが 血を流した近藤が
 此の伏見奉行所に戻った日に土方へと浴びせた罵倒を 今は繰り返さなかった。
 今回の事は確かに配慮不足だったが 近藤を想う土方の心持ちに疑いようが無いのは
 沖田がまだ"宗次郎"と呼ばれていた頃から 彼自身が分かっていた事だった。
 近藤の笑顔が土方に向けられているのを 幼い宗次郎はいつも隣で見上げていた。
 そうしていると視線に気付いた近藤が 自分にも笑い掛けてくれるからだった。
 いつの日か待っていなくとも 自分が一番に近藤の目の中に入る存在になる。
 小さな剣士は心にそう決めていた。 
「ホントそうですね でもまぁ近藤さんが死ぬ訳ありませんけど」
 僅かに責めてそれきり口を噤む沖田に 土方は片眉を下げた。 
「お前…… 此処に何しに来たんだ?」
「ん? 休ませてあげようと思って 土方さんを」
「ああっ?」
 口角で持ち上げた頬が 悪戯っ子のような瞳を細める。
 昔からよく目にした上面の笑顔が 土方を益々怪訝顔にさせる。 
「こうやって僕と話してれば 仕事にならないでしょ?」
 然もいい行いをしているんだと言わんばかりの沖田に  
「お前なっ こう言うのは"邪魔"しに来たっつうんだよ!
 俺を休ませる気があんならな 茶のひとつでも持って来いってんだっ」
 最初からそんな企みだったと分かり ふつふつと怒りが湧いた土方はつい口走った。
「ふぅん 僕の淹れたお茶でいいんだ?」
 真顔になった沖田に問いかけられて
「あ? いや やっぱり要らねえ」
 自分が言った事の重大さに気付いた土方は 冷静になると前言を取り消した。


「お茶と言えば…… 」
 何やらぶつぶつと文句を言う土方を気にせずに 沖田はぽつりと呟いて続ける。
「なんで渡さなかったんですか?」
「あ~? そりゃ何の事だ」
 土方は硯に撫で付けている筆先に視線を向けたまま聞き返した。
「"ちづるちゃん"」
 瞬時 沖田にはその手が止まったように見えた。
「あのお千って言う鬼の姫が またちづるちゃんを迎えに来たんでしょ?」
「なんでそれをお前が知ってる?」
 そう言って土方は 正面から顔を動かさずに眼球だけ沖田に流した。
「なんでだっていいでしょっ 聞いてるのはこっちなんだから答えて下さいよ」
 まるで幼子が駄々をこねるような言い方の沖田に 土方は溜め息で返事をする。
「直に戦が始まるんですよ!?
 あの子向こうに預けちゃえば 煩い事がひとつ減るじゃないですかっ
 それを勝手にひとりで決めちゃってっ なに考えてるんですか!?」
 慶応三年 十二月。
 大晦日も近い京に 軍備を整えた薩摩・長州両藩の軍隊が集まった為に
 新選組は伏見奉行所へ詰め いつ起きてもおかしくない戦闘に備えていた。
 近藤が襲撃されたのはそんな矢先だった。
 命は助かったとはいえ 指揮などとても持てそうにない近藤に
 戦力にはなれどいつ狂い出し 敵味方も分からなくなるかもしれない羅刹隊。
 そして 今や刀を持つ事すら儘ならぬ自分。
 黙ったままの土方の態度に 自然と沖田の声が荒くなる。
 当の土方は もう済んだ事を咎められてあからさまにうんざりと額に手を当てた。
「誰に聞けってんだよ? 近藤さんはあんなだし 山南さんは言わずもがな
 原田や永倉は前に来た時だって猛反対してたじゃねえか
 当時は御陵衛士で居なかった斎藤も……
 況して平助は 此処に戻ってきた今も賛成するとは思えねえ
 総司 お前だって『部外者が口を出すな』とかあの女に言ってたよな?
 それに綱道さんの事も…… あるじゃねえかよ」
 最後に口にした理由は 取ってつけたかのようで思わず語尾が窄んだ。
「今更そんな探る人手と時間が 一体ドコにあるって言うんですかっ
 あの鬼の男が 攘夷派の方に綱道さんはいるって言ったんでしょ?
 それこそ奴等戦のどさくさに紛れて ちづるちゃんを連れ去りに来るかもしれない 
 でも"由緒ある鬼のお姫様"の居場所なら それなりの護りはあるだろうし」
 普段近藤の事以外は大して興味を持たない沖田が 身を乗り出して抗議してきて
「"新選組"が護ってやるって言ったんだぞっ
 内情が緊迫してきたからって おめおめと他に渡せるかよっ」
 その正当な物言いに土方は戦いたのか 聊か向きになって反論した。  
「戦が終わったらまたココに引き取ればいいじゃないですか
 あの子がそれまでの間に逃げるとは思えないし…… て言うか何その無駄な矜持は」
 それも百姓の生まれ故に高くなるものなのか?と 武士の血を持つ沖田は思った。 
「その護りにしたって相手はあの風間だぞ? 認めたかねえがお前だって…… 」
 攘夷過激派捕縛の為に池田屋へと襲撃したあの日。
 新選組は成果を収めたものの 額を切られた平助を見て眉根を寄せ
 そして己の吐き出した血で隊服を染めた沖田に 土方は目を見張った。
 組内一の剣豪がやられた。それも差しでの勝負だと言うのに気絶するまで。
 それ程の者が薩摩 あるいは長州浪士の中にいるのだと思い脅威を感じた。
 そして後に その相手が浪士どころか人ですらない
 西国の鬼の頭領・風間千景だと知る。
「う~ん…… なんか聞けば聞くほど…… 」
「何だよ?」
 困ったように眉尻を下げ 握った拳を顎に当てる沖田に問い掛ける。
「ちづるちゃんを責任があるから渡せないと言うより 
 土方さんがちづるちゃんを自分の傍に置いておきたいのかな?って」
「何言ってやがる 馬鹿かお前はっ」
 くだらない事を言われ 土方は付き合いきれないと座布団に正座し直した。
「だって話聞いてるとそうにしか…… あ!!」
 背を向けた土方を眺めていた沖田は突如声を上げた。
「こ 今度は何だ?」
 また余計な事を言い出すのではないかと恐る恐る振り返る。
「ま まさか…… 」
 沖田の目が見開かれた。 
「まさか?…… 」
 滅多に見る事の無いその表情に 緊張が走る土方。
「美味しいお茶が飲めなくなるのが嫌だからとかって言うんじゃないでしょうね?」
「………… はぁ!?」
 言われた内容に頭がついて行かず 土方は多少の間の後やっとそれだけ口にした。
「だって土方さん ちづるちゃんの淹れたのしか飲まないじゃないですか」
 常に土方を見張っているかのように言う沖田。
「んな事ねえよっ 単に今は茶ぁ淹れるのはちづるの仕事みてえなもんじゃ」
「え?」
「あ?」
 何かに気付いた風の沖田に土方が気付く。
 その顔は見る見る間に いつものしたり顔へと変わっていった。
「土方さんてば いつから彼女の事"ちづる"って言うようになったんです?」
 弱みを握ったかのように 上目遣いで口の端を上げる。
「!? おっ お前等だってそう呼んでんじゃねえかっ」
 土方は沖田に言われた事よりも 
 ちづるの名前を無意識に口にしたと気付いて 動揺している自分に動揺した。
「僕達は割と最初の方からあの子を名前で呼んでましたけど 土方さんは
 本人には"お前"とか 僕等には"あのガキ"とかだったじゃないですか」
「うっ うるせえよ お前いい加減寝ろよっ」
 調子づいた沖田にこれ以上何か言っても 無駄に疲れるだけと土方は諦めた。


「でもあの子が居なくなったら…… 皆寂しがったでしょうね」
 沖田は 千姫にちづるを渡さなかった事で
 さっきまで土方を責めていたのを忘れたかのように話し出す。
「ちょこまかとよく働いて 鬱陶しいくらい世話焼きで」
 聞こえている筈の土方は無言だったが 否定の言葉も発しなかった事に
 沖田は彼が自分と同じ想いでいるのだろうと続ける。
「屈託の無い笑顔に釣られてこっちまで……
 あの子 いつの間にかココの中でそんな存在になってたんですね
 綱道さん探しの為に置いてるなんて…… ちょっと忘れてましたよ」
「俺は忘れてなんかいねえよ あれはそれだけの価値しかねえ
 だがな あいつは新選組のもんだ 例え一時でも責任を投げ出す気はねえ」
 それは"新選組副長"の声だった。
「あ~あ ホントに素直じゃ無いなぁ」
 からかうのも此処までかと 沖田はつまらなさそうに呟いた。
「あのガキ…… 此処を出て鬼の姫と一緒に行くと言いやがった」
「え?」
「でもな そう言っときながらあべこべな顔しててよ」
 もうこの話は仕舞いだろうと思っていた沖田の目が瞬く。
「俺が『出て行きたくねえんだろ?』って言ったら 鳩が豆鉄砲食らったような
 そんな顔見たら『ここにいりゃいい』って勝手に口から出ちまったんだよ」
「へぇ~(それが事の顛末ね)それでちづるちゃんはどうしたんですか?」
「でけえ声で礼言って ほっとした顔してやがった」
 ちづるを思い出してか苦く笑う。
「あの子にとっても僕達 もうただ怖いだけの存在じゃないみたいですね」
 そんな土方を 沖田は冷やかすのをうっかり忘れていた。
「ふんっ 調子に乗らねえようにさせねえとな あれも江戸の女だ
 のほほんとしてそうでいて こうと思ったら何しだすか分からねえ」
 鼻を膨らませ 何処かそうなる事を期待しているかに見える土方。
「(このヒト 自分が今どんな顔してるか分かってないんだろうなぁ)
 僕達の姉さんと同じようなトコありますからねあの子 まぁ江戸からひとり
 男装して京まで来るくらいの 無謀な度胸の持ち主ですし」
 沖田は自分の言葉で ちづるを見つけた時の事を思い出した。
 今宵と同じように底冷えのする夜。一目で"女"と分かりその滑稽さに哂った。  
 "羅刹"を見てしまった少女に 土方が切っ先を向けて振り下ろすのを
 斎藤と共に眺めて終わる…… 筈だった。
「(まさかこんな風になるとはね)
 彼女…… これから僕達にどんな影響を及ぼすんでしょうね?」
 自分達が ちづるが居候するそれまでと変わった事は明らかだった。
「影響?この新選組にか?
 あのガキにっんなもんあるかよっ あるとすれば親父の方だろうが」
 土方の目はもう新しい書簡紙へと注がれていた。
「("僕達に"って言ってるのに) それにしても土方さんて…… 」
「あん?」
 名を口にされ訝しげに振り向く。
「今はちづるちゃんに "女"って意識はあるんですね」
「………… 」
 沖田に言われた土方は言葉を失ったが 瞬時眉を吊り上げた。
「だからなんでお前はそう言う所を拾うんだよ!」
「だって!さっき『あれも江戸の女だ』って言っ コホッ ゴフッ」
「おいっ 総司!?」
 急に咳込み前屈みになる沖田に手を伸ばす。
「だいっゴホッゴホッ 大丈 夫ですよ でももう…… 部屋に戻ります」
 それを避けるように背を向けた沖田は
「ああっ いい いいっ そのまま羽織って行けっ」
 借りていた羽織りを肩から外そうとして土方に止められた。
「土方さん」
 沖田は障子に手を添えて その背中に呼び掛けた。 
「あ? まだ何かあんのか?」
 土方は筆を動かしながら訊ねる。
「程々にしといてくださいね
 あなたには近藤さんを護る…… 大事な役目があるんですから」
「……なんだ その"大事な役目" 俺だけに任せてくれるのか?」
 少しだけ傾けた顔からほくそ笑むのが見えた。
「まさか! もちろん僕だって担いますよっ 今のはっ」
「分かってるよ冗談だっ 早く行けっ」
 土方は野良犬を追い払うように垂らした左手を振った。 
「おやすみなさい 土方さん」
「ああ…… 」
 


 縁側に出た沖田は空を仰いだ。
 空気が澄み 眩しい程の月明かり。
 ほぅっと吐き出す息は白く形を作る。
 キリッとした寒さに思わず身を竦めた。 
「このヒトが一番影響されそうな気がするんだけど…… 」
 一抹の不安と期待を胸に彼はその場から離れる。 
 後にした部屋の灯りは まだ消えそうも無かった。




― 了 ―



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