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みぃ

Author:みぃ
ブログ公開:2012/4/17

この作品に出会えて
本当に良かった。
これからもずっと変わらず
愛してます。(主に副長を♡)

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我が家に咲いた小桜 【前編】


【斎藤 一/夫婦・子】「愛おしきもの」続編



 仕事からの帰り道は いつも意識せずとも自然と早足になる。
 ちづるの待つ我が家に少しでも早く着きたいと思う気持ちがそうさせるのだろう。
 本当は全力で走りたいところだが 近所の間で話の種にされそうで我慢していた。
 だが最近は噂の花を咲かせるくらい構うものかと開き直っている。
 だいぶ寒くなってきたこの斗南でも直に初雪が降りそうな季節。
 とっぷりとした景色の中 ぼんやりと灯りが見えて俺はほっと安堵した。
 取り合えずちづるが家にいる事が分かる。
 なにせあのでかい腹だ。いつ何時なにが起こるか分かりはしない。
 そう思うと気が気でなかった。
 できたらずっと側にいてやりたい。大人しくしていろと言ったところであいつは
 はいと素直に返事だけして動き回っているに違いない。
 その証拠に家の中はいつも綺麗に片づけられていたし 料理の品が一品でも
 少なくなっていたことが無かった。繕い物は翌日には仕上がっていて それに加えて
 産まれてくる赤ん坊の産着やら湿しやらを縫っているらしかった。
 憶測でしかないのは 出来上がった品を大量に目にするもちづるが作っている姿を
 俺が家の中で見たことがなかったからだ。以前 夜更けにひとり起き出し
 隣の部屋で最小限の灯りの中 衣擦れのような音に気付いて問い掛けた時があった。
 適当にはぐらかされたがあれは…… つまりはそう言うことだったのだろう。
 そんな彼女を見かねて『あまり根を詰めるなよ?』と言っても
『大した事していませんよ?』などとけろりとした顔で返ってくる。
 ちづるの基準に合わせたら誰も着いてこれないだろう。そう思うほどよく働いていた。
「その働きが俺を走らすのだ…… 」
 白い溜め息をひとつ深く吐いて玄関の戸を開けた。

「今 帰っ…… 」
 瞬間 俺は息を呑んだ。
 全身が縮むと言うのはこういうことかと鳥肌が立った。
 靴の存在も忘れ 上り口から続く襖が開いた居間に土足で踏み込んだ。
「お お帰りなさいませはじめさん すみませんこんな格好で…… 」
 目に入ったのは 苦しそうに横たわりながらも笑顔を浮かべたちづるの姿だった。
「どうしたのだ!? ちづるっ」
 蒼白な顔をしているであろう俺を見て 自分が一番大事に思うことを先に口にする。
「大丈夫です お腹は打ったりしていませんから」
 それだけがまるで自慢のように彼女は尚目尻を下げる。
「ちょっと驚いてしまって…… 」
 ならどうして横になどなっているのかと ちづるの身体を調べてみる。
 膝辺りの着物に砂が付いているのを見つけ「見るぞ?」と言い裾をめくると
 しっかり肌を擦り剥いた状態があった。
 そして今度は自分から差し出した掌と手首の境目辺りに
 膝より酷い傷が両手共にできていた。恐らく一番に地面についたのだろう。
 柔らかい皮膚を切り裂き痛々しく出血していた。まだ乾ききっていない所を見ると
 事は幾らもしていない内に起こったのだと分かる。
「一応 砂を落として洗ったのですけれど…… 」
 両手がこうでは いくら蘭方医の娘だからと言って手当ては難しかったのだろう。
「一体何があったと言うのだ?」
 俺が待ち切れずに問い詰めると ちづるは怖ず怖ずと話始める。
「に 庭でつまずいて転んでしまいました」
「何故こんな暗くなってから庭など歩いていたのだ!?」
 特に心配無さそうだと分かると ほっとした反動で言い方がきつくなった。
 ちづるは俺の声に少し驚いた顔をして黙っていたが 観念して口を開いた。
「はじめさんの…… 」
「俺の?」
「お帰りが待ち遠しくて 気付いたら外へ…… 」
 言いながら怒られた幼子のように俯く。つい声を荒げたことを俺は後悔した。
 やはり心細かったのだと思った。毎朝とびきりの笑顔で送り出してくれるちづる。
 背を向けて後ろ髪を引かれる俺同様 ひとりになった彼女も本当は淋しがっていたのだ。
 もっと人の多い里に引っ越そうかと提案したこともあったが ちづるは
『この土地で授かった命 この斗南でこの子を産みたいです』とやんわり断った。
 こうと決めたら人の意見などきかぬ女だとよく分かっていた俺は
 それ以上何も言わなかった。思えばこの大事な時期に幾日もかけて引っ越すなど 
 ちづるに余計な負担を課すだけだと己の浅知恵の愚かさを知った。

「待っていろ…… 」
 俺は玄関に下り靴を脱ぐと 怪我の手当てをする為に薬箱を取りにまた居間に入った。
 彼女の怪我はその血筋故に放っておいても明日の朝までには治ってしまうだろうが
 かと言ってこのままにしておくわけにはいかない。
 しかし肝心の薬箱が何処にあるのか 自分が知らないことに初めて気付く。
 見当もつかず立ちつくしていると ちづるが
「すみません はじめさん
 私 薬箱をその茶箪笥の一番下に片してしまったんです」
 俺でも分かる気遣いの嘘を吐いて さりげなく薬箱のある場所を教えてくれる。
「そうか…… 」
 情けなく返事をして 言われた通りの所から見つけ取り出し
 今は己の不甲斐無さを感じている場合ではないと彼女の元へ戻る。
 消毒して布を当て 裂いた晒で巻いて縛った。
「ありがとうございます」
 何かとてもいい物を貰ったかのように 嬉しそうにちづるは笑う。
「あんまり驚かせないでくれ」
 そう言って俺は彼女を抱きしめた。
 華奢な身体に似つかわしくない 大きく出ている腹を庇いながら。
「ごめんなさい 心配をおかけしてしまって…… 」
 俺の胸に寄り添ってちづるは言った。


 出産の時期はすぐそこまで来ていた。
 もうすっかりこの土地には慣れたが 幼い頃に母親が他界しているちづるにとって
 ひとりでの初めての御産に言いようのない不安を抱えているだろう。
 正直俺も怖い。出産時に母親が命を落とす場合もあると聞いたことがある。
 だが唯一の救いがあった。近所に産婆が住んでいたのだ。
 ちづるはこの産婆によく相談していて まるで自分の母を見るように慕っていた。  
 ある日産後の時に何かあってはと 自分が"鬼"であることを話したと言う。
 気味悪く思われるか あるいは頭がおかしく見られるかと思われたが
『おやおや 鬼の子を取り上げるのはあたしも初めてだねぇ』
 と肝の据わった言葉を言って大笑いしたらしい。
『信じてないのかもしれませんけど』とちづるもクスクスと笑っていた。
 子供ができたと聞いて嬉しいと思う気持ちは ちづるの腹が大きくなるにつれ
 愛おしいさに変わり日々増してくる。しかし……
 ちづると子供とどちらかと言われれば 俺は迷わず"ちづる"を取るだろう。
 それでも念願の子供を授かった彼女が 自分の命を懸けてでも
 腹の子を守るのは分かっている。それは仕方のないことやもしれんが
 彼女のその一途な想いも俺は怖かった。

 抱きしめていた腕を離すと 立ち上がろうとするちづるを不思議に思って声を掛ける。
「何だ?」
「はい 夕餉の支度を…… 」
 当たり前のような顔をして俺に答えた。
「そんな事はいいから座っていろ! 俺がやるっ」
 と言ってその両肩に手を置いて座布団の上に押し付けるように座らせた。
「だっ駄目ですそんなの! お風呂が沸いてますからお入りになってください!」
 やれやれ。そう来るのは想定済みだがこれでは先が思いやられる。
 実際に赤ん坊が産まれたら 今よりもっと気を張って頑張ろうとするのが目に見える。
「お前の気持ちは嬉しい だが少しは俺の言うこともきいてくれぬか?」
 強制的にわからせようとしても却ってややこしくなる。頼み込むように俺が言うと
 自分が逆らっていると気付き 彼女は申し訳なさそうに詫びた。
 俺は今更ながら自分はちづるが居ないと何もできない男なのだと思った。
 彼女が俺に何か任せられないのは 俺がそう言う人間だからなのだ。
 薬箱ひとつ何処にあるのか分からない。
 賄いの仕度は隊士だった頃にやっていて 男の割にはできた方だと自負していたが
 ちづるから見れば危なっかしく見えていたのかもしれない。
 俺は…… そんなに頼りにならない夫なのか? 
 情けなくてそれが顔に出たようで そんな俺をちづるが心配そうに見ていた。
「いや…… 何でもない」
 彼女の心の声が聞こえた気がしてそう返事をした。
「お前のことだ おかずはもう出来上がっていて 後はよそうだけだろ?」
 俺は腰を上げて 煮物の匂いが漂う勝手場へ下りた。
「はじめさん せめて上着を…… 」
 ああそうかと脱いで渡す。
「本当に…… 申し訳ありません」
 受け取ったちづるはそれを抱きしめて蚊の鳴くような声で言った。
「あの頃の様で懐かしいではないか」
 袖をまくり上げながらなるべく気にやまないように言うと 屯所時代を思い出したのか
 彼女が淡く笑んだので俺も釣られて笑った。


 いつもの静かな食卓。
 間もなくこんなゆったりと過ごせなくなるだろう。
 自分にとって赤ん坊というのは未知なる生き物だが 仕事仲間にそれとなく聞き
 俺も覚悟はしているつもりだ。でも実際いるのといないのとでは比べようもないことで
 一抹の不安は残るものの ちづるが教えてくれるだろうと安易に考えたりしている。
 代わりに俺は彼女に何をしてやれるのだろう…… 。
「はじめさん おかわりは如何ですか?」
「あ? あぁ…… いや 今日はいい 美味かった」
 毎食彼女の手料理はつい食い過ぎてしまう。
「そうですか では後になってしまいましたが お風呂を……
 ああ! ぬるくなってしまっているでしょうから もう少し待っててくださいね?
 今すぐ薪を焼べて…… 」
「ちづる」
「はい?」
 喉元過ぎれば。さっき言ったばかりなのにもう何もかもやろうと立ち上がる彼女に
 俺はわざと眉根を寄せて軽く睨んだ。
「あ…… はい…… 」
「今日も一緒に入るぞ」
 ばつが悪そうに項垂れた彼女に問い掛ける。
「え!? えぇぇ……  はぃ」
 上げた顔を一瞬で染め 今度は恥ずかしそうに俯いた。
 母になろうと言うのにまるで少女のように恥じらい いつまでも初々しいちづる。
 未だに俺の心を捕らえて離さない恋女房。
 怖いくらいの幸せに慣れてこなかった俺は いつかそれが壊れそうで不安に感じ
 着替えを持ってきたちづるをまた抱きしめた。





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