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プロフィール

みぃ

Author:みぃ
ブログ公開:2012/4/17

この作品に出会えて
本当に良かった。
これからもずっと変わらず
愛してます。(主に副長を♡)

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愛おしき者


【斎藤 一/夫婦・子】




 こつこつと小気味よい音に俺は目覚めた。
 視覚がはっきりすると 嗅覚も敏感に反応し始める。
「(今朝の味噌汁は…… 何の実だろうか?)」
 包丁の音を耳に そんな事をぼんやり思ってみる。

 穏やかな空間。
 数年前まで戦に明け暮れていたのが嘘のようだ。
 今は此処 東北の最北端斗南に腰を落ち着け
 愛する彼女と……
「はじめさん? お目覚めですか?」
 襖の向こうで ちづるが小さな声で静かに聞いてくる。
 もし俺がまだ眠っているようなら
 起こしてはならぬと思う心遣いなのだろう。
 褥の上で彼女との思い出を巡らせているのもいいが 
 やはり本物の顔を見たくなって 俺は返事をした。
「ああ 起きている」
 そう言うと襖は開けられ ちづるは優しい微笑みを浮かべ入って来た。
「おはようございます はじめさん」
「おはよう ちづる」
 もう何度このやり取りをしただろうか。
 かつて明日をもしれない命の毎日。
 朝を迎えられる事がとてつもなく幸せに感じる。
「あのっ 起してしまいましたでしょうか?」
 体を起こした俺の前に座り 彼女は不安げに言う。
「いや 丁度目覚めたところだったが 何故そのように聞く?」
「今日は 折角のお休みなので もっとゆっくりなさっていたいかと…… 」
 仕事の日はいつも早々と起きている俺を 休みの日ぐらい寝かせてやりたいと思う 
 どこまでも気遣いの彼女に 冷えた部屋の中で心が温かくなる。
「でも朝餉を召し上がらないのも よくないと思って…… 」
 躊躇いながらそう言う 彼女の小さな手を取った。
「お前の作った飯を 食わぬ訳がなかろう?」
 草木すら育たない極寒の地。食材を手に入れるのもままならない中
 ちづるは試行錯誤して 俺好みの食事を出してくれる。
 その気持ちが可愛いと思えて取った手を引き寄せた。
「あ…… 」
 思い掛けなかったのだろう。ちづるは顔を朱に染め恥じらった。
 ずっと傍にいると言うのに いつまでも初々しい様子にこちらまで照れが出る。
「今日は…… 何処か出掛けるてみるか?」
 小柄な体を抱きながら聞いてみる。
「え?いいのですか? 外はまだまだ寒いですよ」
 あまり表に出たがらない俺を ちづるはよく分かっていた。
「何処と言っても雪ばかりで 見る所も無いがな」
「散歩だけでも 楽しいですっ」
 そんな欲の無い事を言わせているのも 俺の所為な気がして心が痛む。
「すまないな」
「何がです?」
 何の疑いも無く目をくりくりとさせ 不思議そうに俺を見るちづるが
 いつもに増して可愛くて 気付けば口づけていた。
「……はじめさん」
 唇を離すと 熱に酔った顔を俺の胸にすり寄せてくる。

 あの日 仙台に向かうと言った土方さんに賛同せず 俺は会津に残った。
 その時彼女は一緒に残ると 俺の傍にいたいと言った。
 正直嬉しかった。だがそこで頷き 承諾する事はやってはならないと思った。
 生きていて欲しかったから。
 例え己の手で幸せに出来なくともいい。生きていてくれさえすれば。
 だが彼女は頑なだった。以前から強情なところがあると思ってはいたが
 何を言っても俺について行くと決意を曲げなかった。
 俺はそんな彼女に根負けした。いや 負けてしまいたかったのだ。
 もし彼女が先に逝ったら 自分も死ねばいい。簡単な事だ。
 俺が 先だったら…… 泣いてくれるだろうか。
「はじめさん?」
 当時を思い出し 不覚にも我を忘れた。
 気難しい顔をしていたのだろう ちづるが心配そうに俺を見る。
「案ずるな 何でもない」
「では 朝餉を召しあがってください」
「ああ」
「あの…… それから…… 」
 立ち上がり こちらに背を向けたままのちづるが俯き言いにくそうに話し出す。
「なんだ?」
「あのぉ いえっ 今はいいですっ」
「ん? 後でもいいのか?」
「はい 後の方がいいかもしれないので…… 」
「???」
 やっとこちらを向いたちづるの顔は 先ほどと同じように染まっていたが
 俺にはその原因が分からず 促されるまま食卓へと向かった。

 確かにまだまだ外の空気は冷たかった。日差しが眩しい所為か 
 雪はだいぶ溶けてきて 道を歩く分には難儀もしなかった。
 だが滑ってもつまらないので 安全の為にちづるに声を掛けた。
 いや ただ俺がそうしたかっただけやもしれぬ。
「手を…… 繋ぐか?」
 徐に手を差し出してみる。すると彼女がクスクスと笑う。
「何が可笑しいのだ?」
「やっぱり はじめさん生粋の"左利き"なのですね」
俺が出した手が利き手の左手だと 面白そうにしていた。
「ああ 言われてみれば…… 」
「ふふふ 不思議ですね どうして右効き左利きがあるんでしょうね?」
「さぁな」
 正直 利き手の事でいい思い出が無い俺はその一言で黙ってしまった。
「どっちの手でも 使えればそれでいいのに」
 続けて言ったちづるの言葉に俺は瞠目した。
「抱きしめてさえしてくれたら 私は幸せですから」
 過去に俺が話した苦い出来事を思い出してか
 ちづるはそう言って微笑みを浮かべた。
 今はこの左の利き手でなければ 彼女に会えなかったかもしれないと
 こじつけるほど そんなに嫌ったものに思えなくなった。
 その手でちづるの手を握ると ふとその格好が気になる。
「そんな 薄着で大丈夫な……  その着物…… 」
「はい はじめさんが 初めて私に買って下さった小紋です」
「わざわざ着替えたのか」
「なんか 嬉しくって」
 ふふふと ちづるは笑って続ける。
「はじめさんと 一緒に歩けるのが」
 普段淋しい思いをさせているのだろうか。
 俺が仕事に行ってから帰るまでの間 あの家でひとりきり。
 たまの休みも仕事が入り 急に無くなる事もある。
 それでも文句ひとつも言わずに『いってらっしゃい』と送り出してくれる。
 その後の彼女を俺は知らない。
 もしかしたら泣く事もあったかもしれない。強情なのに泣き虫なちづる。 

 ……子供でもいれば。

 子供がいれば安心して家を空けられると思っている訳ではない。
 それはそれで尚更心配になるだろう。
 だがその存在があれば ちづるはどんなに喜ぶだろうか。
 『仲が良過ぎるのも考えものなんだぞ』
 そう仕事仲間にからかわれた事もある。そうなのかと驚いた。
 当たり前のように彼女を抱いて眠っていたが そう聞いて少し我慢してみる。
 この頃は口づけだけで眠るのもだいぶ慣れた。
 それでも今もって兆しは見られない。なかなかうまくいかないものだと思う。
「やはり まだ寒いな 体も冷えるし戻るか ちづる?」
 隣を歩く彼女に問いかける。
「……は ……い」
 先ほどまでの彼女と打って変った様子に俺は目を見開いた。
「ちづる!?」
 顔の色は見るからに青くなり 目を瞑ってふらついていた。
「どうしたのだ!?」
「ちょっと…… 気分が でも大丈夫ですからっ」
 なんの根拠があるのか そう言い切るちづるだが 
 吐き気までも催すらしく 口元に手を当てている。
「いっ 医者にっ」
 そんな慌てる俺の着物の袖を掴んで
「本当に大丈夫なんです はじめさん…… 家に連れ帰ってくれますか?」
 辛そうなのに何故かにっこり微笑み そう懇願してくる。
「本当にいいのか?それで」
「はい」
 本心はそんな言う事を聞いてやりたくは無かったが
 そこまで言うのならと 取りあえず家へ戻る事にした。

「横になれ 今 布団を敷いてやる」
「はじめさん…… 」
「なんだ? ちょっと待っていろっ」
「はじめさん」
 繰り返し呼ばれ そんなに何か言いたい事があるのかと 
 大黒柱に寄り掛かり座っている まだ顔色の悪いちづるの傍に行く。
 額に手を当てるも 熱は高くは無い様で少し安心した。
「はじめさん…… 」
「ん?」
 今俺は酷く情けない顔をしているやもしれんと自分でも分かる。
 散々人の命を奪ってきた己が 
 目の前の一番大事な存在が消えてしまうのではないかと思うと
 身震いすら覚えてくる。
「私達のところに…… やっと春が来ましたよ」
「? ……そう だな 春はもう少しで此処に来るな?」
「ふふふ この斗南にも来ますけど…… 」
 彼女は何が言いたいのだろう?俺はちづるの瞳を見つめてみた。
 潤ませたそれは具合が悪そうな表情の中で どこか満ち足りているようだった。
「ちづる?」
 早く謎解きの答えが知りたくて名を呼んだ。
「私…… 赤ちゃんを授かりました」
「…………」
「はじめさん? あの…… 聞こえました?」
「きっ 聞こえた気もする…… が もう一度言ってくれるか?」
 震えた声を出す俺を ちづるは頬を朱に染めて笑いじれったくした。
「はじめさん 私達…… 父様と母様になるのですよ」
 確かに聞こえた。だが夢のような出来事に夢なのだろうと思った。
「これは…… 俺は 今 目が覚めているか?」
「はい?」
 今度はちづるが不思議そうにする。でも俺の言葉の意味が分かったのか
「ちゃんと 私が見えているでしょう?」
 と 両手で俺の頬を包んだ。
「はじめさんっ!?」
 ちづるが俺の何に驚いたのか分からなかった。
 自分の頬に伝わる物に気付かなかったのは それまで感じた事が無かったから。
「ほ…… 本当か?」
「はい ここにちゃんといますよ」
 ちづるはそう言うと 俺の手を取り自分の腹に当てる。
 一瞬 触ってはならぬような気がして手を浮かせたが
 怖がらないでと言う風に彼女が再びそこへ押し付けた。
 目に見えるものではないが この中にちづると俺の子がいるかと思うと
 冷たい掌にほわりと温かさを感じた気がした。
「大事にしますね」
 そう言われて我に返った。そうだ こんな大事な体なのに……
「それなら何故 散歩などに行ったのだ!まだ滑りやすいと言うのにっ」
 自分で誘っておきながら俺は声を荒げてしまった。
「ご ごめんなさいっ でも…… 」
 叱られた幼子の様に口を引き結び 目線を伏せてちづるは言う。
「行きたかったのです どうしても はじめさんと一緒に」
「だから 話は後の方がいいと 言ったのだな」
 返事をしないのは 自分でも軽率だったと反省しているのだろう。
 たかが散歩に俺が買ってやった着物に着替えてまで 楽しみにしたちづる。
 それ以上責めるもの可哀相になって 俯く彼女を抱き寄せた。
「良かったな 本当に良かった…… 」
「はい やっとあなたに恩返しができます」
「恩返し?」
 また解せない事を言うちづるの顔を見る。俺が何の恩を売ったと言うのか。
「私を…… 一緒に此処へ連れて来てくれました」
「それは…… 」
「はじめさんは嫌がっていたのに」
 嫌がっていた訳では無い。こんな何も無い所に連れてくるのが忍びなかった。
 でもどう考えても彼女に傍にいて欲しかった。
「なのに私は はじめさんに何もしてあげられなくて」
 彼女は自分の価値に気付いて無いようだった。
 俺がどんなに頼りにしているか やはり言葉にするのも大事だと思う。
「そんな事を言わないでくれ 俺の方こそお前をほったらかしにしているではないか」
「そっ そんな事はありませんっ」
 突然怒った風に言われて驚愕する。
「はじめさんは…… 私を大事にしてくれてます」
 瞳に流れ落ちようとしている雫を留まらせている。
「これからは この子も…… 守ってやってくださいね」
 ちづるはすっかり"母の顔"になって見えた。
「当たり前ではないか お前と俺の子だ」
 俺はまだまだ"父の顔"には程遠いやもしれんが 全力で守っていくと誓う。

 いわゆる"つわり"と言うものの吐き気だから 心配には及ばないと言うちづる。
 それでも辛そうにしているのが目に入れば やはり気になってしまう。
「こんなでも 赤ちゃんがいる証拠だと思えば嬉しいんです」
 口元を押さえながらそう笑う彼女が 
 どうしても愛おしくて 口づけようとして拒まれる。
「あ 吐いたばかりで汚いで…… 」
 そんな事などどうでもいい。
 今俺は この上ない幸せに酔いしれているのだから。
「幸せだな」
 軽く触れた唇を離して言ってみる。
「はい 幸せです 本当に」
 そう微笑むちづるを 思いきり抱きしめたいのを我慢して
 二本の腕を囲う様にその体にまわした。

 不思議と…… 芽生えたばかりの小さき鼓動を感じた気がした。




― 了 ―


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