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みぃ

Author:みぃ
ブログ公開:2012/4/17

この作品に出会えて
本当に良かった。
これからもずっと変わらず
愛してます。(主に副長を♡)

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あん ぽん たん


【土方歳三/SSL】



 パタパタと狭い歩幅で歩く音と、床のラバーシートを蹴るように歩く音が重なった。
「あ!」
「あ?」
 廊下の曲がり角での出会いがしら。ギリギリ衝突は免れた。
「ひ、土方先生っ」
「なんだ雪村、次は移動教室か?」
 いきなりそう訊いたのは、その生徒の教室が此処とは違う別の校舎側にあるからだ。
「いえ、昨日提出しなかった生徒たちの授業公開の出欠プリントを、土方先生の所まで
 持って行くように原田先生に頼まれました。職員室の先生の机に置いておきますか?」
 提出物には締切日が決められているが、必ずと言っていい程クラスで2、3人は忘れる。
「ああ、いい。ここで貰っとく、ご苦労だった。どうだ、来週から定期考査が始まるが勉強は
 捗ってるか?」
 まさかこのタイミングでテストの話題を振られると思わず、ちづるは一瞬で固まった。
「ええっと、はい、まぁ、なんとか…… 」
 どうにか返事はしたものの、捗っているかと問われれば歯切れが悪い。
「ははは、おまえ物理は苦手だからな」
 苦手なのはそれだけじゃないです(汗)と、心の中で申し訳なく思い自然と首を垂れるも
 多くの生徒の中のひとりである自分の成績状況を、多忙な土方が把握してくれていると
 知ったちづるは頬が上がるのを抑制できない。それが教師の職務だとしても。
「だがそれが終われば学生のおまえらには楽しみが待ってるだろ。直に冬休みに入って
 クリスマスに大晦日、正月と」
 教頭としてはその間に何も起こらないでほしいと願わずにはいられない。
「はい、先輩方が誘ってくれました。ほかにも伊吹君やお千ちゃ…… 島原女子高の
 友だちも一緒に」
 学校や学年も異なるメンバーだが、何かにつけ一緒に遊ぶようになった。それはそれで
 とても楽しい時間だと思うちづるだが
「総司たちか。そりゃまた大人数だな、浮かれすぎて羽目外すなよ。つぅーか、おまえらの
 年頃には彼氏と二人きりで、とかじゃねえのか?」
 からかう風もなく首を傾げて窺う土方に、願望を見透かされてちづるは弾けた。
「彼氏なんて! わ、私にはいませんし…… 」
 二人きりで過ごすシーズン毎のイベント。奥手のちづるとて憧れない筈もなく夢に見るが
 だからと言ってその相手が誰でもいいわけではない。焦がれる想い人でなくては。
 勢いづいたものの、取り敢えず彼氏の存在を否定するだけでちづるには精一杯だった。
「そうか。立場上教師の俺が言うのもおかしいが、おまえならすぐできるんじゃねえか?
 この学園は男女交際禁止の校則は無いんだし、好きな奴ぐらいいるんだろ?」
「その人は…… 私の想いに気づいていませんから」
 残酷な言葉を涼しげな顔で平然と言い放つ土方に、ちづるは嫌味を込めて白状した。
「まあ男に限ったことじゃねえが、気持ちってのは言葉にしねえとわからねえもんだ。
 にしても学園唯一の女子からの視線に気づかないのか。あんぽんたんな野郎だな」
「あんぽん…… たん?」
 鸚鵡返しをするもその語をちづるは知っている。が、ただ以前に聞いたことがあるだけで
 褒め言葉としては使わないとわかる程度のぼんやりとしたものだった。
「アホで愚か者って意味だ。 んっ、もう行かねえと授業始まっちまうぞ」
 スーツから覗かせた手首の時計を見た土方に急かされたちづるが「はい」とお辞儀をして
 一歩後退りしたときにはもう土方は歩き出していた。躊躇いなく離れて行く背中を見つめ
 模範生徒の内なる枷が外れた。
「土方先生のっ、」
 ほかに誰も居ない廊下の狭い空間に鈴を振るような声はよく通り、土方を振り向かせる。
 頬を紅潮させたちづるは、怒っているようにも困っているようにも見える顔をしていた。
「       」
 あとの部分が聞こえなかったのは、頭上のスピーカーから授業開始のベルが響いたから
 だった。呆然と立ちつくす土方を目にし、自分の仕出かしたことに漸く気づいたちづるは
 慌てて深々と頭を下げて、スカートの裾を翻しその場を後にした。


『土方先生のっ、あんぽんたん!』


 何も施されていないのにほんのり色づいた唇は、はっきりと意味を込めて動かされた。
 土方に読唇術の心得はないが、間違いないと変に自信があった。
「吐かしやがる、勘は鋭いほうだってんだ。鬼の教頭を舐めんなっ」
 熱い目にはとっくに気づいていた。それでも気持ちを押しつけるようなことは一切して
 来ない生徒に、しらばくれる方法を幾つも持っているズルイ大人は容赦しない。
 一番言いたい言葉を、今はその唇から言わせないように。
「……ったく」
 教師として当然の配慮だというのに、後味の悪さに似たこの感情に苛つく。紛らすには
 仕事をすればいい、やらねばならないことはそれこそ山ほどあるのだ。
 土方はちづるに渡されたプリントを一時眺め、古文の教科書にそれを挟むと職員室へ
 足を急がせた。







― END ―


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