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みぃ

Author:みぃ
ブログ公開:2012/4/17

この作品に出会えて
本当に良かった。
これからもずっと変わらず
愛してます。(主に副長を♡)

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雨宿り


【斎藤 一/屯所】



 確かに今日は 朝からどんよりとした空模様ではあった。
 そう思い出しながら斎藤 一は
「俺としたことが…… 」
 湿気の多い季節も過ぎて 油断した己を悔やんだ。
 出かけにちづるが何やら向こう側で叫んでいたのはこのことだったのか。
 てっきりいつもの『いってらっしゃいませ』と送り出す言葉だと思い込み
 大声で返事をするのも躊躇われ ただ頷いて先を急いでしまった。
「(浮かれていたのやもしれんな)」
 溜息と共にそう自分を戒め 先程からひっきりなしに天から落ちる雫が
 地面に勢いよく打ちつけられ 不規則に跳ね跳ぶのを見ていた。
 土方に遣いを頼まれて 店で受け取ったその品を潰さぬよう大事に抱え 
 自分の隊の巡察に間に合うよう足を急がせていた。
 ところが頬にぽつぽつと感じるものを認識した途端 その粒はまるで
 ひと塊りになったかのように大粒に形を変え 斎藤に向かって襲ってきた。
「(物が物でなければ走ったものを)」
 自分はどんなにずぶ濡れになったとしても構いはしなかった。
 屯所に戻り 熱い風呂にでも入れば病にかかることもないだろう。
「(だが これを濡らすわけにはならぬのだ)」
 これだけは…… 斎藤は腕の中の包みの具合を確かめた。
 どうやら心配するほどの様子もなくほっとする。

 雨が降りだした時 すぐ近くの漬物屋に入った。
 巡察に出ると寄る所なので 店の主人とは顔馴染みだった。
 訳を伝え 軒先に身を置く許しをもらう。
 今日は余計な事に巻き込まれる訳にはいかないと
 斎藤は隊服を着てこなかったのだが 店の主人はすぐに分かり
「すんませんなぁ新選組の旦那はん 
 生憎奉公人がみんな持っていってしまいまして 傘お貸できなくて」
 店の主人は申し訳なさそうにそう言って頭を下げた。
「いや 気遣いは無用だ この勢いならその内小降りになり止むだろう」
 ところが予想したよりこの雨はしぶとかった。
 空を覆っているうす暗い雲は なかなか斎藤の頭の上から退こうとしなかった。
「(まぁ 雨はいい…… 取り敢えずいいのだが…… )」
 ちらりと脇に瞳だけ動かす。
 その存在がどちらかと言えば雨より厄介だった。
 それは小さく弱いもので もう随分前から嗚咽を漏らし着物の袖を涙で濡らしていた。
「えっ ぐぅ くぅぅっ…… 」
 まだ幼い男児は調子良く肩を上下させ 斎藤を苛つかせた。
「(こやつ いい加減泣きやまぬかっ)」
 視線を空に戻し呆れる斎藤。
 自分が泣かせた訳ではないので放っておいても一向に構わないのだが
 同じ軒下にて雨宿りで並ぶ同士 何とも気まずい気がしてならない。 

 それにしてもよく泣く。
 次から次へと小さき瞳から流れ出てくる。
 瞼は赤く腫れ 手の甲で何度も拭う所為で頬すら赤剝けそうな様子だ。
 いったい何があったというのか。
「(いくら雨とは言え 自分の家まで走って帰れそうなものだが…… )」
 どこか違う場所に行って欲しいと思う。
 子供は苦手だ。何を考えているのかわからない。
 さっきまで笑っていたかと思うと突如大声で泣きだす。
 何でも優先にしてやらないと頬を膨らませて拗ね始める。
 欲しい物は欲しいと言い 手に入るのが当たり前だと思っている。
 厄介な遠慮のない生き物。斎藤の"子供"の解釈はそんなものだった。
 自分も子供時代は当然のようにあったが こんな風ではなかったと半ば呆れていた。
「(こんな時にちづるがいてくれたなら…… )」
 心の中で弱音を吐く。
 あいつならそれこそ次の涙が出るより早く この幼子を泣きやますことができたであろう。
 あの優しい笑顔とかわいい声で慰められればどんな子供も いやどんな生き物も
 たちまち癒されてしまうに違いない。自分で経験済みなのでそれは確かなことだと思う。
「(最悪 総司でもいいっ)」
 あれは癒しではなく"同類"という意味で子供の気持ちが分かるかもしれない。
 あるいはあの殺気で黙らすだろう。斎藤にしても殺気を放つのは簡単だったが 
 いくらなんでも幼子相手に 総司と同じことをするのは嫌だった。
 隣の幼子は嗚咽の合間に
「どぉ…… して」だの「は 母上ぇ…… 」だの言葉を増やしていった。
 斎藤は元来 土方と任務以外には他人事に興味を持たない人間だが
 子供の口から"母"と出てくると堪らず声を掛けてしまった。
「お前…… 何故泣いているのだ?」
 隣で黙ったままだった黒い着物に白い襟巻をして 刀を差した大人の男に
 急に声を掛けられ 幼子は身を縮まらせ怯えた顔で斎藤を見上げた。
 心なしか余計に子の涙を誘ったように感じられて 瞬時斎藤はうろたえるが
 腹を据えて再び話しかける。
「雨はなかなか止みそうもない 暇つぶしに聞かせてくれぬか?」
 できる限り怖い顔にならぬよう努めた。
 幼子は暫く斎藤を眺めていたが 自分の足元へと俯きごしごしと頬の雫を拭った。
「は 母上にっ…… 」
 まだ落ち着きを取り戻せず 言葉に詰まりながらも話し始める。
「母上に し 叱られました」
「(そんな事かっ)」
 他愛もない。やはり子供だ。
「どんな叱られ方をされたのか知らぬが 男子たる者 そう簡単に泣くものではないぞ」
 つい口調がきつくなったと気づき慌てて言い足す。
「っで お前は何をして叱られたのだ?」
 幼子は言いたくなさそうな様子であったが 誰かに聞いて欲しいと思っているのか
 ひと息ついてから問い掛けに口を開いた。
「母上に…… ややが産まれたのです」
「ほぉ お前の兄弟だな 喜ばしいことではないか」
「………… 」
 幼子は 分かってないなぁとでもいうように足で小石を蹴った。
「産まれたややは母上の子で 私は父上の子なのです」
「?」
 斎藤は最初何を言われているのか分からないでいた。
 暫く考えを巡らせ つまりは……
「それは 母上殿は父上殿の後添いということか?」
 幼い子供に言葉の意味がわかるのかと思いながらも口にしたが 幼子は知っているようで
 こくんと頷いた。
「弟が産まれると母上は…… 私に冷たくなったのです」
 斎藤はやっぱり話しかけなければよかったと悔やんだ。これは人生相談並の内容だ。
 本来 親が子を叱る時は愛情がそこに込められている。
 危ないことをして怪我をしないようにとか 将来道を外さないように躾けるなど。
 腹を痛めた我が子を想うからこそできるわけで それが継母となると……
 苦し紛れに 肝心の叱られた原因を探ってみる。
「それで なんと言われたのだ?」
 言い難いことを聞いてくる斎藤に 幼子はせめてもの抵抗なのか小声で呟く。
「は 母上にややと同じように抱っこして欲しいと言ったら 甘えるなと…… 」
 それはまたきつい。
 よく見れば そう願ってもまだおかしくない年端もゆかぬ頃。
 さすがの斎藤も同情せずにはいられなかった。

あなたはお父様の様に立派な武士にならなけらばならない 
そんな甘えた気持ちでいては 
お亡くなりになったあなたのお母様に顔向けできない
もっとしっかりおなりなさい

 余程心に応えたのか 幼子は事細かく継母の言葉を覚えていて斎藤に教えた。
「(それは…… )」
 斎藤はその言葉の中にとてつもない母親の想いを見つけた。
 子の継母は 自分が産んでいないこの子を疎ましく思った訳ではないのだ。
 継母ならではこそ 厳しく接しなければならぬ時があった。
 後に嫁いだ自分が母になり 長子である(と思われる)子を腑抜けにしてしまっては 
 亡くなった本当の母に申し訳が立たないと思ったのではないか。
 幼子はそんな継母の心の奥が読みとれず『あなたのお母様』というところに 
 反応してしまったのだろう。
 幼子は雨宿りをしているのではない。家に帰れずに仕方なくここにいるのだ。
「母上殿のことが好きか?」
 継母を思い出して 再び目を滲ませる幼子に問う。
「は ぁい…… 」
 込み上げるのを必死で我慢している子の頭に 斎藤は手を置いていた。
「お前は幸せ者だな」
 言われて幼子は なにが? と不思議そうな顔で斎藤を見た。
「いいか? 
 誰が何と言おうと母上殿はお前を心底愛おしいとお思いだ」
「え?」
「産まれた弟の良い兄にならねばな」
 思い当たることがあったのか 幼子は目を丸くして泣くのをやめた。
「はじめさん!!」
 突然名を呼ばれた斎藤が振り向くと そこには見知らぬ人が立っていた。
 丸髷を結った品のある女が傘を差してこちらを向いている。
「(誰だったか…… ?)」
 記憶を巡らせていると 隣から弾んだ声が響いた。
「母上!!」
 幼子はそう叫ぶと 斎藤の名を口にした女へと走り出した。
 母上と呼ばれた者は 着物の裾に雨水で出来た泥が沁み込むのも気にせず 
 身をかがめて飛び込んでくる幼子を受け止める。
「あなたはもう! 何をしているのです! どれほど心配したか!」
 震えた口調で言い終えると 自分の胸へ押し込むように子を抱きしめた。
「どこか怪我でもしましたか!?」
 瞬時険しい顔になり子の体を確かめる。
「いいえ そのようなことはありません…… 」
 訳を言いたくなくて幼子は言葉を濁した。
「なら屋敷に帰ってたっぷりお説教ですよっ」
 継母は立ち上がると 斎藤に気づき頭を下げた。
「私の子が何か失礼なことをなさいませんでしたでしょうか?」
「いや 何も」
 斎藤の答えに継母は安堵した風に笑み 子の手を引いて歩き出した。
 もうすっかり斎藤の存在など忘れていた幼子は急に振り返り にっこり笑ってから
 その笑顔を継母の方に戻して帰って行った。

「やれやれ…… 」
 言うでもなく口から零れる。
 巡察より疲労感を感じた斎藤であったが 何故か嫌な思いではなかったと思う。
「何がやれやれなんですか? 斎藤さん」
 聞き覚えのある声に逆に斎藤は驚愕した。
「ち ちづる!? 」
 いるはずのない人物が 傘を差し微笑んで目の前に立っている。
「おっ お前 どうしてっ!?」
 珍しく動揺する斎藤を見て ちづるは少し楽しそうに笑う。
「お迎えにあがりました 雨で難儀していらっしゃるかと思って」
「ひとりでか!?」
 見たところ 近くに他の隊士の姿はない。
 だがちづるはひとりで出歩いてはならぬはず。もし副長に知れでもしたら……
「一応お聞きしたのですが…… 」
 ちづるは少し躊躇してから
「『お前は行くなっ 雨なんかで斎藤はやられやしねぇ 絶対行くなよ!』と言われて
 でも凄い雨だったので来ちゃいました けど…… 」
 言いながら空を見上げる。雨はいつの間にか霧雨へと変わり静かになっていた。
 "土方の遣いの品"を持つ斎藤の手に力が入る。
 風呂敷包みの中の物が何であるかは彼も知っていた。故にちづるには会いたくなかった。
「斎藤さん?」
 どこか視線が定まらない斎藤を不思議そうにちづるは眺める。
「今頃屯所ではえらいことになっているぞ」
「そうですね でも気になってしまって」
「何が?」
「お戻りになられないのは斎藤さんに何かあったのではと思って…… 」
 自分を気にして来た。そう言われたら怒ることもできず斎藤は諦めた。
「で? 俺用の傘は?」
 どう見てもちづるの手には 今本人が差している物しか目に入らない。
「っ!? ああっ!!」
 叫んだちづるは顔を朱に染める。
「ごっ ごめんなさい! 忘れました…… 」
 しおしおと項垂れるちづるを見て 何故か先ほどの幼子を思い出した。
 気づかれないように笑って
「では それに入れてくれるのか?」
 斎藤が問うと 俯く顔を上げたちづるは「はい!」と手の傘を突き出した。

 ひとつの傘に入り二人並んで歩く。
 背の違いから 今度は斎藤が傘の柄を持った。
 邪魔だろうとちづるは"土方の遣いの品"を自分が持つと言ったが
 顔色を青くした斎藤がその申し出を頑なに拒んだので任せることにした。
「もうじき夏祭りですね」
 ちづるが嬉しそうに言うと 再び斎藤はぎくりと顔を強張らせた。
「そ そうだな おっ 俺達は警護で忙しいだろうがっ」
「そうですよね…… 」
 少し残念そうに呟いた彼女に 斎藤は慌てて付け加える。
「だがっ もしかしたら良いことがあるやもしれんなっ」
「何ですか? 良いことって?」
 斎藤はまずいと冷や汗を掻く。
「い いやっ その日になってみなくてはわからんがっ」
「?」
 首を傾げるちづるに「急ぐぞっ」と斎藤は早足で歩き出した。
 屯所に戻ると案の定『ちづるがいない!』と大騒ぎだった。
 土方は怒髪天を突く勢いで怒鳴り
 沖田は刀を振りかざし 嬉しそうにちづるを追いかけ回した。
 平助と原田が外に探しに行ったまままだ戻っていない状況を聞かされ
 勝手な行動で迷惑を掛けたと土下座して詫びるちづる。そんな彼女を背に
 斎藤は土方や沖田の前に立ちはだかり 代わりに自分を斬ってくれと言い出した。
 皆 ただちづるが心配だっただけなのだが。
 


 土方の部屋へ行き 遣いの品を差し出した斎藤は畳に正座した。
「ちづるが来た時は驚きました」
 報告と同時に 共に雨宿りした自分と同じ名の幼子のことを思い出す。
 今頃また泣いてやしないかと。
「そうだろうな あいつにだけは見られちゃなんねぇからな」
 土方は苦笑いを浮かべながら風呂敷包みを解く。
 和紙から出てきた女物の浴衣地は桜色の色彩で 可愛らしい蝶の柄が広がる。
「きっと喜びますよ」
「ああ…… そうだといいな」
 穏やかな表情で微笑んでいることにお互い気づかず 
 前に広げたちづるの為の浴衣を暫く二人は眺めていた。



― 了 ―
            



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