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みぃ

Author:みぃ
ブログ公開:2012/4/17

この作品に出会えて
本当に良かった。
これからもずっと変わらず
愛してます。(主に副長を♡)

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嘘と真の狭間で - 後編 -


【土方 歳三/転生パラレル】「嘘と真の狭間で」の後編




 喉の渇きで目が覚めた。
 同時に身体の全神経が繋がって頭に激痛が走り 額に手を当てながら起き上がる。
「畜生っ これだから酒って奴ぁ…… 」
 とは言えこの二日酔いは覚悟の上だ。それ程昨夜は素面でいたくなかった。
 自宅に帰ったところをみると 連れに原田を選んだのは正解だったようだ。
 あいつは勘が働くから 飲まない俺からの誘いに最初何か言いたげだったが
 当たり障りのない仕事の話をする中で 無理に聞き出すようなことはしてこなかった。
 早くも血色の良くなった俺が カウンター奥の大将に催促のグラスを差し出すと
 原田はやんわり声を掛けてきたが これで仕舞いにしては来た意味がない。
 酔い始めは自分でもわかる。大体二杯目の半分くらいで身体が熱るのを感じ
 その内ふわりと浮かび出したらそろそろやばい状態なのだが 何故か昨夜は三杯目を
 飲み干しても酔った気がしなくて その後も何杯か呷った。結果…… その意識は
 瞼が落ちたと同時に一瞬で飛んだ。俺は予定していた以上に充分酔えた。その勢いで
 何か口走った気もするが 酒に支配された言葉など原田も聞き取れなかっただろう。
「ったく…… 本当に潰れちまうとはな」
 そうなると朝まで起きることは滅多にないのだが 昨日は珍しく途中で目が覚めて
 薄く開けた瞼から白木枠の天井照明が見えた。見慣れた物に 家か?と思っていると
 すぐ傍から男女の話し声が耳に入り それは酔いも消し飛ぶような内容だった。
    
ちづるに好きな男がいる――

 本人が告白した訳ではないが 原田の問い掛けにちづるは否定しなかった。
 だがその男の範疇にちづるは入っていないらしく 既に諦めた風だった。 
 それが本当なら相手は"総司"ではないことになる。好きな男に結婚を申し込まれたら
 一も二もなく承諾する筈だ。返事は保留にされたと総司は言っていたが ちづるの性格上
 そんな思わせぶりな態度をとるだろうか? それよりも何故プロポーズされたことを
 俺に教えなかった? 単に気恥ずかしかったのか 言う必要もないと思ったからなのか。
 幼い頃から些細なことも聞かされていた俺は ちづるのことは全て知ったつもりだが
 思い出してみると あいつの恋愛に関する話は一度も耳にしたことがない。
 13も歳が離れた兄に 思春期の妹が胸の内を秘めるのは当然だったのだろうが
 あの器量と気立ての良さで浮いた話ひとつなかったのが今は奇妙にすら思えてくる。
 当時の俺は ちづるは幼い意味でまだガキなのだろうくらいにしか思ってなかったし
 女子生徒達が恋の話で騒ぐ中 あいつに想い人がいないことに安心しきっていた。
 それがどうだ
 言い当てられて言葉に詰まり 一瞬で頬を染めさせてしまう男がちづるにもいた。
 一体いつ頃 何処で出会い 何がきっかけだったのか。頭の中でぐるぐると巡ったが
 それがわかったところでどうなる。ちづるがその男に焦がれているのは紛れもない事実。
 ……酷く気分が悪い。
 碌につまみも口にせず次々流し込んだ所為…… だけではないとわかっている。

歳三 ……さん 

 柔らかな懐かしい声で呼ばれた気がして 俺はその身体に縋りついた。




「おっ なんだ土方さん早えな 昨日はご馳走さんっ」
 引き戸を開けるなり原田はそう言い 着ていたコートを脱ぎながらデスクに向かう。
「此処に車置いてったからな それにコレも残していった分早く片づけなきゃならねえし
 おまえこそ随分と早えじゃねえか ……まだ7時前だぞ?」
 書類に向けていた目を腕時計へと移し眉を寄せた。 
「俺も同じだよ それに顧問としてたまには朝練の様子も見とかねえとな」
「悪かったな色々面倒掛けちまって 渡しといたのじゃ足りなかったんじゃねえか?」
 昨夜のことを詫びると 原田は何か思い出したように目を見開いた。 
「そうだ! つりが…… ちょっと待ってくれぇ 今返すワ」
 手にしたコートから財布を取り出すのが見えて そんなのはいいと顔の前で手を振った。 
「あんたが気にする程の面倒掛けられてねえよ タクシー乗せて家ン中まで運んだだけで 
 久しぶりにちづると話せて俺も楽しかったしよ 今の時期3年生は殆ど学校来ねえから
 けど怒ってただろ? あんな潰れるまで飲んで ちづるはああ見えて結構恐えもんな」
 三十過ぎの同僚が高校生の妹に説教される様子を想像して原田はくつくつと笑い出す。
「さあな 始発に間に合うよう出たから今朝は顔も見てねえよ」
「始発!? それって4時台だろ? よくそんな時間に起きられたなっ」
「でけえ声出すな! 頭に響くだろうがっ」
 水を飲みに下へ行こうと布団を剥いだ先に 水差しとコップそれに頭痛薬を乗せた盆が
 置いてあった。部屋に入ってきた気配に覚えはなく その時には熟睡していたんだろう。
 あんな酷い目にあった後で 俺に近づくのでさえ怖かっただろうに…… 。
「なあ あいつとどんな話したんだ?」
「ちづるか? 大した話じゃねえぜ 毎日何やってんだ?とか あとは弱えくせに飲んで
 見事に潰れちまった兄ちゃんの悪口…… ってのは冗談で 何か気になるのか?」
「いや…… 」
 頭が朦朧としていた俺の記憶は定かでなく ちづると見知らぬ男との真相が知りたくて
 無駄を承知で尋ねたが やはり原田は告げ口をするようなことはしない。
「年頃の妹を持つ兄貴には心配事が尽きねえよな 況してや両親が亡くなってれば尚更だ
 けどちづるも春から大学生だ そろそろつき合う男ができてもおかしくない…… て言うか
 寧ろ遅いくらいだろ そん時は親代わりとして忠告のひとつも言いたくなるだろうが
 黙って見守るのも兄貴の役目ってもんじゃねえかと思うぜ…… とか妹がいもしねえ俺が
 偉そうに言えることじゃねえけどよ」
 それでもちづるを自由にしてやれと言う辺り 俺の存在が障壁だと思っているようだ。
「見る度違う女を連れてるおまえに 俺の妹の心配なんざされたくもねえよ」
「人聞きの悪いこと言うなよっ だからあいつらはダチなんだって!」
「どうだか……  ん?」
 訝しい目を向けていると胸に振動を感じた。
「電話か?」
 浅く頷いた後 画面に出ている未登録の番号に首を傾げながらボタンを押す。
「はい土方です…… は? あぁ~ おはようございます
 ええ今日は早く出たんで……  それで何か?
 あ! そう でしたね いえそんなことは…… 連絡しなくてすみません
 はい…… はい わかりました…… それでお願いします 失礼します…… 」
 そろそろ替え時の携帯端末を畳んで盛大なため息を吐いた。
「えらく歯切れの悪い応答だったな 誰からだ?」
「お袋の一番上の姉 つまり俺の伯母」
「その伯母さんがこんな朝っぱらから電話しなきゃならねえ程の話か?」
 気になるのか 原田は一旦腰を上げた椅子に座り直し身を乗り出してくる。
「すっかり忘れてたぜ 見合いのことなんか…… 」
「みあいって…… あの見合いか!? すんのか!? あんたがっ!?」
 驚いた原田の大声に 独り言のつもりでうっかり口にしたことを激しく後悔した。
 俺は咄嗟に頭を押さえて デスクの上で転がっていたボールペンを奴に投げつけた。
「したくてするんじゃねえよっ あの人は良く言えば世話好き 裏を返せばお節介な人で
 自分に子供がいねえ所為か俺の母親が亡くなった後 その性分がヒートアップしちまって
 この3年間適当な理由をつけて逃げてたんだが 今回はどうにも粘り強くていっそのこと
 1回でも受ければ気が済むかと思ってよ とは言え断るのが前提だからあちらさんには
 申し訳ねえけどな 先に断ってくれたら御の字なんだが…… 」
 勝手な野郎だと言われようが 自分にとって都合のいい展開を願ってやまない。
「亡くなった妹の代わりに三十超えた甥のお嫁さんは私が世話してあげなきゃ! ってか」
「三十超えてて悪かったな」
 その場に居たのかと思う程 伯母の言葉を原田に繰り返されガキのようにふてくされる。
「まだ焦る歳でもねえと思うけどな でもよ 最初からその気もねえのにうるせえからって
 会うのは危険だぞ? 見合いするってことは少なからず"結婚する意思がある"と相手は
 思ってる筈だ あちらさんが土方さんを気に入っちまったらそれこそややこしくなるぜ?
 やめとけよ 今の電話の様子じゃ『あのお嬢さんのドコに不満があるの?』とか言って
 ごり押しされるのが目に見えてる まあ老いた伯母さんの気持ちもわからなくはねえが
 そんなに心配しなくても あんたほどだったら例え四十や五十になっても簡単に相手を
 見つけられるだろうし?」
「五十過ぎて独りだったらもうしねえよ…… 」
 元より何歳だろうが身を固めるつもりはない。ちづるは俺の妹でなくてはならない。
 かと言って他の女となど考えられない ……そういうことだ。 
「ならいつするんだ? そもそも結婚する気あるのか?」
 原田よ…… おまえもか。何故みんな同じことを言ってきやがる。
「朝は早えし夜は遅え上に休日も自主出勤 そんな仕事優先の男と一緒になったところで
 まともな家庭なんざ築けやしねえだろ それよりも家にはまだ学生の妹がいるんだぜ?
 先方には同居の了承を得ているらしいが…… 揉め事が起こる予感しかしねえ」
 同じ内容を伯母にはオブラートに包んだ言葉で伝えたが 不気味な程の満面の笑みで
 予感が的中した時の"解決策"を提案された。それは到底納得できるものではなかった。
「フッ やっぱりそっちなんだな」
「あ?」
 ニヤニヤと笑みを浮かべる原田が何に納得したのかわからなかった。
「教頭のあんたがこの学園を大事に思ってるのは知ってる 他にもう一つ……
 それとは比べ物にならねえ程大事にしているものがあるのもな けど大事にし過ぎて
 逆に壊しちまったり失くしちまったりよ…… 何でも程ほどがいいらしいぜ? おっ
 部員が集まる時間だな ちょっくら様子見に外行ってくるワ 邪魔して悪かったな」
 言いたいことを言うとコートを持ち 職員室の出入り口へ向う長身の背中に問い掛ける。
「てめえ…… 俺に説教する為に早く来やがったな?」
 振り向きもせず原田は黙ったまま片手をひょいと上げて出て行った。
「ったく…… 」
 誰も居なくなったのをいいことに1本口に銜え 暖房の所為でうっすら曇る窓ガラスの
 際に立ち 開放した瞬間入り込むひやりとした空気に軽く身震いして火を移す。
 ため息と共に煙をひとつ吐き出し 白白と明けた空を仰いだ。




 車庫に車を収めてから自分で鍵を開け玄関に一歩踏み入れると 伏せた視界に
 幅を広げ力強く踏ん張る足が映り目線を上げた。
「なんで黙って行っちゃうのよ!!」
「あ?」  
 出迎えの言葉も省いたいきなりの怒声に唖然とする。
「早く出るなら出るで一言声掛けてってよ! てっきりまだ寝てると思って起こしに行ったら
 部屋にも何処にも居ないし 私だけだってわかってたら簡単にトーストでよかったのに
 早起きしてご飯炊いたんだからね それより昨日のあれは何!? 泥酔するまで飲んで
 原田先生に迷惑掛けて…… かっ 担がれて帰ってきたらびっくりするでしょ!!」
 潤む目で精一杯眉を吊り上げる様子に ただ可愛いとにやけそうになる口元を引き結ぶ。
 次いで『俺の言った通りだろ?』ほくそ笑む原田の顔が脳裏に浮かんだ。
「悪かったよ 原田には詫びたしその内ちゃんと借りも返すからよ」
 上り口に揃えてあるスリッパを履き 何年か振りにちづるの頭を撫でて宥めた。
「おっ 鰤か?」
 ネクタイを外し テーブルの上で湯気が立ちのぼる椀や小鉢を覗きながら椅子に座る。
「うん 大根があったから一緒に煮つけたんだけど照り焼きがよかった?」 
「いや こっちのほうが生姜も入ってっから身体があったまるだろ」
 美味そうな匂いに釣られ猫舌も忘れて放り込み 口の中で甘辛い味を噛みしめた。
「本当にもう無茶な飲み方しないでね
 結婚してもあんなんじゃ…… お お嫁さんに嫌われちゃうよ?」
 おどおどと尻窄みになる声にピンとくる。
「豊田の伯母さんか…… 朝掛けてきたんだろ?」
「兄さんの携帯の番号教えなさいって…… 私断れなくて…… ごめんなさい」
「構わねえよ おまえが太刀打ちできる相手じゃねえ 俺ですら勝てねえってのに」
 大方そんなことだろうと思っていた。
 早朝ならと掛けてみれば肝心の俺はもう出勤したと言われたものの これ以上先方を
 待たすわけにはいかないと伯母も焦っていたのだろう。俺の携帯番号を教えていいのか
 迷うちづるも あのドスの利いた野太い声で催促されれば従うしかない。
「なあ…… おまえ俺に結婚してほしいか?」
 ふと 改まって訊いたこともなかったと口に出してみる。
「……そりゃあ寂しい気もするけど 兄さんのこと心配だし幸せになってもらいたいし
 ていうか…… 兄さん付きあってる人…… いるんじゃないの?」
 上目をつかい探りを入れた問い掛けに首をひねる。
「なんだそりゃ? そんなのがいるなら見合い話なんか端から断ってるよ」
「でも昨日の夜…… 」
 辛うじて聞き取れる声で呟きながら まとめた髪の上から首を押さえる仕草を見て
 昨晩自分がしでかしたことかと気づいた。
「ううんっ 何でもない!」
 突如そう叫んだちづるが 小走りで台所の奥にある流し台へと向かってくれたお蔭で
 あからさまに動揺して引き攣る顔を見られずに済み胸を撫で下ろす。
 言い訳にもならないが あれは夢の中のことだと思っていた。"ちづる"の優しい声がして
 その身体を引き寄せた。実体のような確かな手応えに疑問を持ちながらも ふわりとした
 甘い香りで鼻を擽られた途端 堪らなく唇で触れたい欲求に駆られ柔肌に顔を埋める。
 そして拒絶の悲鳴で現実に戻ると 腕の中に居たのは"妹"のほうで背筋が凍りついた。
 最早酔っぱらいの奇行だったと装うしかなく 間違えたと言う言葉を聞いたちづるが
 兄の彼女という 居もしない女の存在を疑うのは当然なのだろう。
 そうだ覚えている…… だが今は飲んだくれの所為にしてとぼける外ない。
「変な奴だな
 そもそも見合いなんかどうでもいいんだよ 伯母さんの顔を立てるだけなんだし」
「そうなの!?」
 種明かしに驚いた顔のまま ちづるはテーブルまで戻り俺の脇に立つ。
「相手には悪いが断ると決めてる おまえ…… 俺がやる気満々だと思ってたのか?」
「そこまでじゃないけど前向きになったのかなぁって…… 豊田の伯母さんが家に来る度
 兄さんお相手の写真も見ないでのらりくらりかわしてたのに 今回は違ったから……
 そうなんだ お見合いしたかったわけじゃなかったんだ…… でっ でも実際会って
 話してみたら気が合ったりして もしかしたら良い感じになって結婚が決まるかもだし
 そっ そしたら私はここを出て独り暮らしして そこから大学に通うね!」
 そういや見合いをする理由を説明してなかったと 暢気に思い出している最中に
 突拍子もない決断をさらりと伝えられ一瞬頭が働かなかった。
「………… おまえ今何て言った?」
「え? あっ心配しないで 費用は家賃も豊田の伯母さんが全部出してくれるんだって
 最初豊田の家から通いなさいって言われたんだけど それは遠慮したいって言ったら」
 どうやら俺が 校内で喫煙する生徒を発見した時と同じ鬼の形相へと変わったのを見た
 ちづるは 引っ越し業者やその他諸々の費用に難色を示したと思い込んで 知らぬ間に
 地雷を踏む結果になった。
「あンのババア…… 」
「にぃ さん?」
「保護者の俺に黙って勝手な真似しやがって文句言ってやる! 見合いもナシだ!!」
 勢いよく立ち上がり持っていた箸を床に叩きつけて 携帯の着信履歴を開いた途端
 奪うより早いと思ったのか ちづるは端末を握る俺の右手ごと抱きしめ阻止する。 
「そんなやめて! 伯母さんは兄さんの為を想ってお世話してくださってるんだからっ
 誰だって新婚さんなら夫婦二人きりのほうがいいに決まってる 私だってそう思うもんっ
 それにこんな遅い時間に電話なんて非常識でしょ!」
 本人では埒が明かないと思って 伯母はちづるを味方にしようと吹き込んだに違いない。
 見合いはするからちづるに余計なことを言わないでくれと 頭を下げて頼んだというのに。
「とにかく独り暮らしは絶対許さねえからなっ
 ババアには断っとくから おまえもこれからは変な気ぃ回すんじゃねえぞ!?」
「わかった! わかったからご飯食べっちゃって!
 ハァ…… こんな風にすぐカッとなるとこお母さんと同じなんだからっ」
 ちづるは携帯を取り上げた後 怒りで震える俺の拳に洗い直した箸をねじ込んだ。
「そりゃこっちの台詞だ さっき玄関で説教垂れた口調なんざ お袋が乗り移ったのかと
 思ったくらいそっくりで気味悪かったぜ」
「そ そんなに?」
 母親に似ている――
 あまり褒められた癖でなくても ちづるはこう言われる度にはにかんだ笑みを浮かべた。
 家族の中で自分だけ造りが違うと丸顔や大きな目を気にしていた時期があって 特に
 母親と性格までそっくりな俺は『ずるい!』と妬まれた。不安からべそを掻くちづるに母は
『ちづるはお母さんの小さい頃とそっくりだから 大きくなったらお母さんみたいになるよ』
 そう言い抱きしめてやった。この同じ椅子に座って二人を眺めた当時 血の繋がりとは
 何なのか考えて…… 俺は目前の光景に答えを見つけた気がした。

「言わんこっちゃねえ…… 」
 瞼が半分下がった状態でこたつに寄りかかりテレビ番組を観る背中に 部屋で休むよう
 声を掛けて風呂へ入り戻ってみれば 案の定ちづるは天板に顔を伏せ眠っていた。
「おい起きろっ ちづる」
うん…… う ん…… 
 返事はするものの 起き上がろうとする様子は見られない。
「ったくしょうがねえな」
 ちづるの唯一と言っていいこの行儀の悪さは幼い頃からのもので 成長と共に回数は
 減ったが 油断するとこの態だ。それでもここ数年はなかったなと思いながら昔の癖で
 両手を伸ばそうとした時だった。艶やかな髪の間から覗く首筋を目にして息をのむ。
 内出血のまだ色濃い状態にかなり強くあてがわれたとわかるその痕は 色白の肌に酷く
 痛々しく見えた。ちづるはこんな俺に触れられるのを嫌がるかもしれない。そう思うと
 抱きかかえて部屋へ運ぶのはえらく躊躇われたが このままでは間違いなく風邪をひく。
 気持ち悪いと言われても病気になるよりマシだ。
 俺は意を決してちづるの脇腹と膝裏に腕を差し入れ持ち上げた。小柄とはいえ すっかり
 寝入った人間を抱いて階段を上がるのは中々骨が折れる。どうにかベッドまで運んで
 横にさせ布団を掛けた後 当然のようにその上からゆっくりとした拍子でトントンと叩いて
 赤ん坊でもあるまいしと失笑する。
「でかくなったな…… 」 
 ついと出た言葉は背格好のことでなく 遠く過ぎた年月を感じたからだった。
 18年前。
 小さな小さな身体を腕の中に抱いたあの日 俺はちづるの何になろうと思ったのか。
 兄か? 父か?
 それらになろうと考えもしたが 結局自分の気持ちを偽ることはできなかった。



『伯母さん 今は本当に忙しい時期なんですよっ』

『あんたが忙しくない時期なんてあるのかい?』

『それは…… 』

『私も今日は今までみたいに空手で帰るつもりはないんだ まあ見てみなさい
 歳は27でちょっといってるけど 家柄も学歴も申し分ない娘さんなんだから』

『そんな"お嬢さん"がなんで俺なんか』

『一目惚れだそうだよ』

『は?』

『よかったねえ母親に似て あれは私達姉妹の中でも一番の器量良しだったからね』

『先方さんはちづるが…… 学生の妹がいること知ってるんですか?』

『当たり前だろう 真っ先に言ったさ 今は嫁ぎ先に小姑が一緒に住んでると聞いたら
 親の方からその場でお断わりってのが多いからね そしたら同居でもいいって言うんだ』

『でも俺は家には寝に帰るくらいで 結婚したとしても相手はちづると過ごすほうが
 多くなるでしょう それでは気の毒だと思いませんか?』

『そうかい? ちづるなら立場を弁えてうまくやってくれると思うけどね それに
 この家にあの子が居るのは長くてもあと4年だろ? その間に子供も授かるだろうし 
 まあどうしようもなくなったら…… 一番いい方法を考えたらいいじゃないか』

『いい方法?』

『例えば…… ちづるを私に預ける なんてのはどうだい?』

『………… 今 何て?』

『知っての通り私は独り暮らしだ 子供もいないけど旦那が遺してくれた財産で
 生活に余裕はある 気に入った部屋を使って構わないし 勿論ちづるに掛かる分は
 私が全部面倒看るから あんたは何も心配しなくていい』

『ご自分が寂しいからですか?』

『何言ってんだい かわいい甥っ子の幸せを想って私は』

『結婚の為にちづるを追い出せと?』

『それで元通りじゃないか』

『え?』

『土方家の"血筋"の子供は4人なんだし』

『そんなこと口に出さないでくださいっ ちづるの耳に入ったら』

『こんな奥の間から台所まで聞こえやしないよ 近づけばスリッパの音がするだろ
 それにしても本当によく今まで本人が知らずにきたかと思うよ 古い人達は地主様の
 家庭の事情に触れないでいてくれてるんだろうけど 皆が心の中で思ってることなんて
 歳三…… もういい大人のあんたならわかるだろ?』
 
『それはどういう意味ですか?』

『そのままさ  詳しく言ってほしいのかい?』

『………… 』

『そうだ 何だったらこの機会に…… 』 

『何です?』


『私がちづるに全部話してあげようか?』



 静かに呼吸を繰り返す無防備な寝顔。 
 二人で眺めた桜の花びらのような唇に 何度も重ねた感触を思い出し
 抑えきれずに頬を寄せるが 触れる寸前で押し留める。
「ちづる…… おまえが"俺"を思い出してくれたら」
 それがちづるにとって本当に幸せなのか。
 答えは疾うに出ているのに 俺は認めるのが怖かった。





― END ―



※物語の中での養子縁組のシステムは実際のものとは異なっています。
 誠に勝手なお願いではございますが ご了承して頂けると助かります。スミマセン><

 悶々とする土方先生しかいなかった!_(:3 」∠)_楽しかった!←
 
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