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みぃ

Author:みぃ
ブログ公開:2012/4/17

この作品に出会えて
本当に良かった。
これからもずっと変わらず
愛してます。(主に副長を♡)

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はじまりは雨


【土方 歳三/現代大学生パラレル】



 玄関ドアを開け 空を見上げた歳三は一時思案して
 部屋の中へ視線を戻すと すぐ脇に寄り掛かっている
 何の特徴もない 透明なビニール傘を手に取った。
「面倒臭えが しょうがねえな」
 落ちて来る雫に文句を言い ドアに鍵を掛けた。


 どの道 今日中に外へは行かねばならないと思っていたが
 珍しく明るい朝を迎えて 出掛かけるのは昼を過ぎてからでいいかと
 彼は寝ていた布団の中に再度潜り込んだ。
 このところの寝不足の原因は 毎回同じ夢の所為。
『必ず また会えますから』
 泣きながらそう言い微笑む女を ぼんやりとした視界で見上げている自分……
 なのかどうかもわからない歳三は 夢を見た後必ず目覚めて暫く眠れない。
 この日も ベランダにあるステンレス製のバケツに無造作に跳ね返る音で
 彼は二度寝から目を覚ました。
 急に降り出すのは 季節柄仕方のないことで
「(無えとわかってたら 昨日の講義の帰りに買っといたのによっ)」
 諦めの息を吐いて傘を広げた。

 目的の自販機に向かって歩いていた歳三のスニーカーは
 アパートを出た時より大粒になった雨に打たれて嫌な感触が足に滲んでくる。
「(やっぱブーツだったよな…… )」
 紐の存在を疎ましく感じた自分を恨めしく思いながら
 ジーパンに入れていた手をシャツの胸に持って行き その中を弄った。
 最後の残り一本を直接口で銜えて 役目が終わった小箱を握り潰した後
 元の場所へ戻すと 今度はその相棒を取り出し
 摩擦を起こす為に親指を当てようとした。その時――
「(あ?)」
 見慣れない光景に思わず歩む足を止めた。
 いや 止められたと言う方が合っているかもしれない。
「(何やってんだ? あの…… )」
 歳三の目には そこに置かれている植え木の向こう側に
 まだランドセルを背負ったままの少女の姿が映った。 
 それだけなら寄り道をしている小学生の下校風景だ。何も不思議がることはない。
 傘を持っているにも関わらず その姿がずぶ濡れでなければ。


 その少女は淡いピンク色の傘を持ち 小さな雑貨屋の店先に佇んでいた。
 手動式のドアのガラスから 如何にもその年頃が好みそうな
 キャラクターグッズや 可愛らしいアイテムが並んでいるのが垣間見える。
 その中に何か欲しい物でもあって 眺めているのかと思ったが
 それにしても不自然だった。
 少女の頭上にある筈の傘は 有らぬ方向に向かって翳されていたからだ。
「( ………… !?)」
 暫くその少女を見つめていることに気づいた歳三は 何故か酷く自分に驚いて
 慌てて歩き出したが 少女を半分隠していた植え木を越えると
 我慢出来ずに横目で盗み見て 再びその足裏はアスファルトに縫いつけられる。
 自分が濡れるのも構わずに 少女が差し出した傘の下にいるもの。
 それは立たせれば少女と同じ程の背丈がありそうな クマのぬいぐるみだった。
 背もたれのある椅子に座らせられていて 伸ばした短い足の上には
[ welcome!! ]
 と印字されたボードが載っている。宛らこの店の"看板クマ"と言ったところか。
 軒先のオーニングは 晴れ間の少ない所為で収納されていて 
 外に出されたままのクマは その体にたっぷりと雨水を含んでいるようだった。
「(ぬいぐるみの為にか?)」
 自分の傘を人形に差してやる少女を見て 歳三は呆気にとられ
 危うく口にある物を落としそうになる。 
 いつからそこに居るのか。髪を二つに分けて結んである水色のリボンは
 悄気たようにその形を崩し 艶やかな黒髪も額や頬に張りついている。 
 雨に濡れなければ ふわりと裾が広がっていたであろう可愛らしいデザインの服も
 その重みですっかりレースは潰されていた。ただ見掛けと違って少女の目は
 なにか使命感にも似た 強い意志があるように歳三は感じた。
「(それにしたって…… )」
 ここの経営者は何をしているのか?
 自分の店の前で 子供がこんなことをしていれば嫌でも気づく筈だ。
 まだ入学したばかりの7歳くらいだろうか。このままでは風邪どころか
 酷くなったら肺炎だって起こすかもしれない。
 恐らくまだ帰りそうもないだろうその雰囲気に 歳三はガシガシと頭を掻くと
 口に銜えたものを胸に戻して 少女に向かって歩き出した。

 雨音の所為か あるいは通り過ぎる車のエンジン音と跳ねる水しぶきの所為か。
 脇に立った歳三に 少女は全く気づく素振りもない。 
 取っ掛かりが見つけられなかった歳三は 声を掛けるタイミングを逃し
 黙って差していたビニール傘を少女に掲げた。
 自分に弾くものを感じなくなり 零れ落ちそうな大きな瞳を
 さらに見開いて少女はやっと歳三を見上げた時 睫毛の雫が頬に流れた。
「おまえ何してんだ? そんなぬいぐるみなんかに自分の傘差して」
 眉間に皺を寄せた大人の男に話し掛けられた少女は 驚いた表情のままだったが
 またクマの方へ顔を戻してぽつりと呟いた。 
「……"むぅちゃん"はお友だちだから」
「ああ? むぅ??」
 その言葉の理解に苦しむ歳三が店の方へと視線を向ける。
 余程の用事ができたのか 急遽店を閉める旨が走り書きされた紙が
 入口のドアのガラスにセロファンテープで貼られていていた。
「居ねえ…… のか」 
 開店時いつものように出した"看板クマ"を仕舞い忘れたか
 或はそんな時間すら店主には惜しかったのかもしれないが
 何にしろクマは取り残されて その内に雨が降って来たと予測できた。
「いつからそうやってんだ? 身体冷えちまうだろうがっ」
「………… 」
 少しキツめな口調で言うも 頑固そうな少女が傘を自分に戻す様子は見られない。
「早く帰らねえとおふくろ…… じゃねえ お母さんが心配してるぞっ」
 途端 それまでキリリとした眉が見る見る間に力を失ったように下がり
 代わりに形の良い小さな唇が引き結ばれる。
「お おかあさんは…… おうちにいないもん」
「あ? ああ 働きに出てんのか」
 憶測でものを言う歳三に 少女は首を横に振って雫を飛ばす。
「ううん ちぃがあかちゃんのころしんじゃったから」
「あ あぁ…… そ そうか」
 余計なことを言って気まずくなった歳三が 誤魔化すように
 雨を吸った前髪を掻き上げて さてどうしようかと思っていると
 自分を"ちぃ"と言う少女は俯いたまま話し始めた。
「がっこうのかえりに まいにちこの"むぅちゃん"とおはなしてるの」
 ぬいぐるみと会話。「(大丈夫か?このガキ)」と思いながらも
 誰も居ない家に帰りたくないのかもしれないと 歳三は黙って聞いていた。
「さかあがりがはじめてできたことや いじわるするイヤなだんしのこととか あと
 おとうさんがあたらしいじてんしゃをかってくれてうれしかったこととか
 それに…… 」
「それに?」 
 黙っているつもりが 途切れた言葉につい反応してしまう。
 こんなことを言ってもいいのかと躊躇う少女だったが 歳三に促されて続ける。 
「 ……ふしぎなゆめのはなしとか」
「夢?」
 奇しくも毎晩同じものに悩まされている歳三は 少女の話に身を乗り出した。 
「しらないおとこのひとがね ちぃに『まってるからな』っていうの」
「………… 」
 自分には女が出てくる。そして同じようにひと言声を掛けられる。
 歳三は自分の夢を思い出して何故か奇妙な気分になる。
「かおはぼんやりしててよくわからないんだけど…… でも
 おにいちゃんのこえ…… そのひとににてるきがするの」
「俺!?」
 声が似ていると言うだけなのに 過剰に反応した自分に驚く。
「うん でもそのひとはかみのけがながかったり みじかかったりするんだぁ」
「ふん?」
 ただの夢の話。何か胸に引っ掛かる気がするが自分の思い過ごしだろう。
「むぅちゃんはだまったままだけど 『よかったね』『げんきだしてね』って
 いつもいってくれてるようなきがするの」
「そうか……
 だけどよ この店の人がいつ帰って来るか分からねえんだぞ?
 いい加減にして家に帰れよ」
「いやっ むぅちゃんはだいじなおともだちだもんっ」
 キツク言っても駄目。なだめすかしても効果なし。
「はぁぁ~~~~(全く頑固なガキだぜ)」
 ほとほと困った歳三だったが ふとあることを思いつく。
「んっ 要は傘がありゃいいんだろ?」
「え?」
 深くなるばかりだった皺が消されて 梅雨の晴れ間のような爽やかな笑顔に
 少女は瞳を奪われる。
「俺のを"こいつ"にやっから おまえは自分の傘差して早く帰れっ」
 言いながら歳三は少女を退かせ 自分のビニール傘をクマに寄り掛からせた。
「だってそしたらおにいちゃんが…… 」
 既に全身びしょ濡れな歳三を気遣う。 
「生意気にガキが大人の心配すんじゃねえ 用事があんのはすぐそこだし
 住んでるアパートだって近くで 体力だってお前の100倍はあるんだからよ」
「100 ……ばい?」
「ああ そうか まだ習ってねえか とにかくこれでいいだろ?」
「うんっ じゃあ ちぃのカサでおにいちゃんのいくところまでおくってってあげる」
「ブッ そのちっせえ傘でか?」
 およそ役に立ちそうもない大きさに思わず噴き出す。
「……ごめんなさい ちぃのせいで もうおにいちゃんもびしょびしょだね……
 あっ ちぃタオルもってるんだっ」
 ダークブラウン色のランドセルを背中から下ろして地面に置き
 中から星の柄が入ったフェイスタオルを引っ張り出す。
「はい! これおにいちゃんにあげるっ」
「あげるっておまえ…… 」
 目の前に出されたファンシーな代物に歳三はたじろいだ。
「むぅちゃんのかわりに ちぃからのおれいっ」
「いらねえよっ そんなの」
 遠慮のつもりで言ったのだが 少女には歳三が迷惑に思ったと感じたのか
 髪のリボンと同じように眉根を下げてタオルを持ったまま項垂れる。
「わっ わかったわかったっ 使わせてもらう ……ありがとよ」
 一瞬で笑顔に戻った少女の顔を貰ったばかりの物で拭いてやる。
「あうっ うぅぅぅ~」
 力の加減が分からない歳三にグリグリと撫でられ少女は悲鳴を上げた。
「ははは おらっ 別嬪に戻った」
「"べっぴん"??」
 知らない言葉に少女は瞳をぱちくりとさせ小首を傾げた。



 雑貨屋から離れ 幾らか小降りになった空の下ふたりは並んで歩いて行く。
「(傍から見たら かなり怪しい組み合わせだよな……
 いや 怪しく見えるのは俺だけか)」
 悪いことをしているわけでもないのに 歳三は何気に辺りを見回す。
「俺 教師…… 学校の先生になるんだよ」
「そうなの!?」
 余りに少女がうるさいので(そうしないと帰らないとまたごねられて)
 歳三は仕方なく"ちぃ"の傘に入れて貰うことにした。
 そうは言っても大学生と小学低学年生。
 傘を持った歳三は彼女の頭上にそれを翳し 自分は相変らず雨に打たれていた。
 頭には"お礼"でもらった星柄タオルを被っている。
「高校のだからな もしかしたらその内おまえに会うかもしれねえな」
「うわぁ そしたらたのしいだろうなぁ」
 すっかり懐いた様子で少女は嬉しそうに笑う。
「毎日 怒られてっかもしんねえぞ?」
「ええ~ どうしてぇ??」
 コロコロ変わる表情に歳三も面白がって少女をからかった。


「ここ?」
 ふたりが立ち止った場所には飲料水メーカーの自動販売機が
 まるで競い合っているかのように何台も並んでいた。
「おうっ 急にあったけえモンが飲みたくなってよ」
「ちぃのおうち ここからすぐなんだよ」
 少女は驚いた風に自宅方向に顔を向ける。
「じゃあ家に着いたら風呂…… は湧かせねえか 濡れた服全部着替えて
 頭っ 髪の毛自分でドライヤー使えるか?」
「うんっ おとうさんのかえりがおそいから ちぃいつもじぶんでやってるよ」
「……そうか 偉いな」
 幼い一生懸命さを不憫に思う歳三。
「へへへ」
 少女は素直に褒められたと思い照れたように笑った。
「ちょっと待ってろ」
「?」
 歳三は傘を"ちぃ"に返すと ジーパンから小銭を取り出し
 人差し指で陳列している前をなぞってそのボタンを押した。
「ほらっ」 
「!? わぁっ ココアっ ちぃだいすきなのっ」
「結構熱いからな 家に着く頃飲み易くなったろ」
 留め金を外してランドセルの中に入れてやる。  
「おにいちゃん いろいろありがとうございました」
 そう言うと少女は深々と頭を下げた。
「なんだ 馬鹿に丁寧だな」
「おとうさんに おれいはキチンというんだよっておそわったから」
 濡れた所為でどこかみすぼらしい姿に利発そうな瞳が輝く。
「じゃあね バイバイ おにいちゃんっ」
「おう…… 」
 少女が空いている方の手を振って 水溜まりも構わず踵を返した。
 パッシャっと跳ねた音が耳に入ると歳三は無意識に叫んだ。 
「"ちぃ"っ」
「え?」
 いきなり名前を呼ばれ驚いたまま振り向く。
 自分があげたタオルを頭に掛けた未だ何処の誰かも知らない大人の男が
 何か言いたげにこちらを見ていて 少女は傘の向きを変えた。
「おにいちゃん?」 
 呼ばれた理由を聞きたくて "ちぃ"は歳三を促す。
「待ってるからな」
「え…… 」
 よく似ていると思ったその声で 夢で何度も言われた同じ言葉を掛けられて
 少女は夢の中の男はこの"おにいちゃん"なのではないかと錯覚しそうになる。
 だが当の歳三はそのことを意識したわけではなかった。  
「高校生になったら また会おうな…… 」
 自分で口にしながら「(こんなガキに何言ってんだ)」と思っていると
 次の瞬間 歳三は二の句が継げず絶句する。
「うんっ ぜったいまたあえるよね!」
 言い方は違えど 夢の女と同じ言葉を言う"ちぃ"。
 刹那 望郷にも似た思いが歳三に湧き上がってくる。愛おしさを含んで…… 。
 家族でもないのに しかもさっき会ったばかりの子供に
 こんな感情を抱くのはおかしいし それは異常でヤバイ。
 それでも末っ子の自分にこんな妹がいたら さぞ可愛がっただろうと思い直すと
 自然と世話を焼きたくなって
「それから今度からは こんな風に知らねえ奴に着いてくんじゃねえぞっ」
 自分のことは棚に上げて注意する。 
「わかってるっ ちぃはねっ…… 」
 然して離れた距離でもないのに 少女は雨に掻き消されないように声を上げた。
「おにいちゃんだから いっしょにあるきたかったの!」
「は…… 」
 何故こんなにもこの少女に驚かされるのか。
 歳三が返事もできないでいる内に 手を振り続ける少女の姿は
 ブロック塀の先へと見えなくなった。


 歳三は 何となく"ちぃ"がそこからひょっこり顔を出すような気がした自分を哂う。
「"ちぃ"…… か」
 知っているだけの名前を呟いて 考えられる候補を思い浮かべてみる。
「("ちぃ"…… ちか? ちあき? ちえ? ちひろ? ち……づ )」

「ちづる…… 」

 妙にしっくりくる名前に行きついて 何故か"夢"を思い出した。 
「ま いっか…… 」
 自分に言い聞かせて空を見上げる。
 鬱陶しいとしか思えなかった じたじたと降り続ける冷たい雨が
 不思議と今はそうは感じない。
「(なんでだろうな? 本当に会えそうな気がすんのは…… )」
 歳三はいつもの癖で胸に手を持っていき 
「っと! これ買いに来たんじゃねえかよっ」
 元々の用事を思い出すと "ダミー"の自販機から目的の場所に向かって走り出した。 



 翌朝。
 天候は明けたのかと思うくらい快晴で緩やかな風が吹いていた。
 歳三はこの朝 あれ程当たり前のようであった夢を見なかったと気づく。 
 久しぶりに途中起きることもなく 朝日が昇ってから自然と目覚めた。
 何やら物足りないような気もしたが 枕元に転がる腕時計を見て
 物想いに耽ている場合ではない時間に慌てて支度を済ますと
 駅へ向かう為にアパートを出た。
 少女と出会った雑貨屋の前を通ると 彼女の大事な"むぅちゃん"が
 まだ開店前の店先で昨日と同じように椅子の上に座っていた。
 時間に余裕はなかったが あのままだったのかと稍気になって近づいてみる。
 クマの足の上には[welcome!!]ボード。そして昨日はなかったカードが一枚。

    [ ボクのたいせつなおともだちへ。 ありがとう ]

 ボードと一緒に載っている物に 歳三は苦笑いして駅へと急いだ。
 ランドセルを背負った小さな背中を思い出しながら。


 何の特徴もない透明なビニール傘の柄に
 不釣り合いな綺麗なレースのリボンが揺れていた。





― END ―


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